むかぁしむかし,ずうっと遠い国で一体の巨大な絡繰人形がつくられました。
その人形の名前はキリコ。彼がつくられてから間もなく,国中の人が
みんないなくなったので,自分がなぜつくられたか知りませんでした。
それから数百年が過ぎました。
おや? 誰もいないはずの街からキュルキュルと音がします。
その音の主はあの絡繰人形・キリコです。
つくられて数百年たちますが,彼はまだ動いています。
今日も静かな街をひっそりと散歩しています。
その時,足下に誰かいるのに気付きました。
女の子です。それも機械の女の子。
「こんにちは」
「こんにちは,かわいいお嬢さん。あなたのお名前は?」
「サンディ。メイド イン チャイナよ」
「良いお名前ですね。私はキリコ」
彼は数百年ぶりにたくさん話をしました。
そして彼は次第に自分の生い立ちを話し始めました。
「私はこの街の人々がいなくなった後,彼らが残した記録を調べてみました」
「何かわかった?」
「ええ。私がつくられてからほどなく,この街は戦争で滅んだようです」
「それでそれで?」
「それを知った時,わかったような気がしましたよ。私は……」
「あなたは?」
「私は兵器としてつくられたのだろう,と」
「そうだったの…………」
「………失礼、気分を悪くされましたか?」
「ううん、全然。ねえ、もっとおはなしして」
彼はかつて自分は兵器かもしれないという思いに呪われていました。
けれどもサンディは彼の人柄を無邪気に受け入れてくれた。
この子に会えただけでも数百年は無駄では無かった。彼はそう感じていました。
「また明日来てもいいかしら?」
「ええ,お待ちしております」
彼らは機械なので人間のような『心』は無いのですが,それでも
温かい歯車がひとつ生まれた。そんな事を感じあっていました。
物語の続きは彼らに語り継いでもらうとしましょう。
絡繰男爵奇譚これにて終了。
【コメント】
この小説は,ポップンノーマルカップリング祭に送ったものです。
10稼働前から注目していました。
キリコ数百才みたいなことを言っていますが,精神年齢は若いです。
敵の攻撃を受け付けない頑丈な体と,暗闇を照らす頭。
つくられた時代の最新兵器は投石器とかでしょう。
それに比べればキリコは超近代兵器。
ちなみに。昔,国語の時間に自作で物語を作ることになったとき,
これのリメイク小説を提出しました。評価は高かったような気がします。