「犬税」を共通テーマにした山仙さんとの連作の第６作です。

作品１、アレグロの序曲はにぎやかに
作品２、日常の悲喜はアンダンテ
作品３、スケルツォは勝手気まま
作品４、恋愛もどきのメヌエット
作品５、ロンドで世界はもつれゆく
作品６、フィナーレは静かにセレナーデ

順番にお読みになることをおすすめします。これにて完結です。

いつものように夜が来ると、たくさんのねずみが動き出し、言葉を紡ぎ始めた。
そのうち何匹かが暴走する。
ときに傲岸不遜、ときに傍若無人。
他人の心をひっかきまわしながら、くるくる世界じゅうを駆け巡る。

そこで人々は、猫を放つことにした。
猫は夜ごとに目を光らせ、ねずみたちを狩る。
飛びかかり、振り回し、粉々に噛みちぎる。
多くのねずみが、抗議の声を上げた。

『もともと言葉は自由なはずだ』
『いや、野放しにすべきではない』
ねずみと猫は、もつれあって、戦いながら数を増やした。
言葉はあふれ、数秒で流れ去り、あるいは泡のように消えていく。

人々は相談し、犬を飼うことにする。
犬は混沌の川面を覗きこみ、ときどき浮かんできた言葉をひょいと拾う。
やわらかな肉球ですくいあげて、宝石のように腰の魚籠にしまいこむ。

なに、魚籠の中身が見たい？　それじゃ、お代を払いなさい。
と言っても、お代は金じゃない。
まごころから己を言葉にささげている者になら、きっとわかるだろう。