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ノー・モア・レギンス！
ノー・モア・レギンス！
誰かそういう歌を作ってくれないだろうか。福山●治やジャニーズの嵐●あたりが歌えば効果があると思うのだが。くる●ではダメだ。かっこよすぎるのだ。東●神起でもダメだ。このために再結成とかやっちゃいけない。おかあさんがいくら応援していると知っていても。
さて、お久しぶりです、おかあさん。夏の日の午後、僕は、エアコンのほどよく効いた研究室の片隅で、ある重要な実験レポートを書きながら、そんなことを空想しつつ、博士の姪っ子ランの連れてきた飼い犬マヤと一緒に留守番をしています。
おかあさん、知ってますか？ マヤの予言では、2012年に地球の極が移動するポールシフトが起こり、急激な大陸移動がはじまり、世界各地の都市が海中に滑り落ちると言われています。いや、マジですよ。この前、アナログ放送が終わり、一部世帯でテレビが砂嵐と化した騒ぎもおよそ片づいて、あと四ヶ月で2012年になるわけですが、果たして僕は生き残れるでしょうか。貯金も満足にない僕が。もし日本が沈没したら、生き残れる民間人は、船を持っている加山雄●か松方弘●か石原軍●くらいなんじゃないかと思います。もう少しいるか。
ところで、1999年7の月、恐怖の大王は結局来なかったことは、僕は極めて記憶に新しいですが、大王はどこに行ったのか結局誰も総括してません。これはマネージメントの問題らしいですよ、おかあさん。まあ、僕の推測では、もしかすると太陽系のどこか別の星にでも行ってしまい、案外火星あたりで超知的軟体生物が7の月にちょっと滅びかけたのかもしれません。いい焼き具合で。そして、一部の生き残りは8の月に地球にこっそり移住してきて明石海峡あたりを新たな棲み処に――いや、説明がだいぶ前後してしまいました。犬のマヤがそんなことを予言したわけではないのです。マヤは飼い主を待ち、あくびしているだけです。
それにしても、おかあさん、博士にあんなきれいな姪がいるとは思いませんでした。大学一年生だと言ってました。布団の中に入れても可愛いくらいの可愛さです。ただね！ ただね！ 実は、ミニスカートの下に昆布のような黒いレギンスを履いているのです。残念だ。実に残念すぎる。僕は世界中を敵に回してもあれは昆布にしか見えないし、世界で最後の一人になっても昆布と言うでしょう。だいたい、女子大生がレギンスを履くなんて、高校のハイソックスをせっかく卒業した意味がないじゃないですか。彼女と階段ですれ違ったとき、胸から上を見た高揚感と、スカートから下を見た失望感をどう言葉にしたらいいでしょう。起こりかけたポールシフトも萎えると言うものです。違いますか。
おかあさん、もうあれです。レギンスという言葉をもう一度スパッツに戻すべき――いや、いっそ股引まで戻さなくてはならないのです。もう法律でそうしましょうよ。選挙権を持つ国民の約半分が無条件に大陸移動するはずです。新しい法務大臣はそれだけでも実現したら大抵の失言・失策は許されると思います。外国人に参政権を与えるよりずっとハードルは低いでしょう。そう言えば犬のマヤはスピッツです。僕はさっき確信しました。きっとこれは――何かの縁ですよね！
あっ、おかあさん、嵐とか砂嵐とかで思い出しました。2012年の人類滅亡説にはもうひとつ有力なものがあって、こちらは何と米航空宇宙局（NASA）が招集した研究チームが2009年に発表した報告書で、『太陽嵐』が世界を滅ぼすと予言されてます。違います、太陽と●スコムーンが嵐●に吸収合併されるのではありません。ジャ●さんは女性アイドルの育成はたぶんしません。彼女たちがもうアイドルかどうかも分からないけれど。
いいですかおかあさん、『太陽嵐』とは、2012年に地球の磁気シールドに大きな穴が開き、太陽フレアに対する防御が極端に弱まり、太陽フレアが放出したエネルギーが地球の磁場を混乱させる現象のことで、強力な電流によって電力網が壊滅する可能性があると示唆しているんです。つまり、全世界規模で停電が起こり、莫大な生命被害や経済被害が起こるわけです。確かに電気がないと、例えば、この研究室にある水槽の熱帯魚は死滅するでしょうし、夜トイレにも行けなくなりますね。これは大変なことです。他にもいくつか被害はあるでしょうが。
それにしても、フレアなんて上級黒魔法の話かと思ってましたが、NASAが言うくらいですから、某RPGをフルCGハリウッド映画にして大損をしたゲーム会社の黒歴史よりひどい事態になる、その信憑性は高いですよ。おかあさん、電気を大切に。ところで、NASAは何でそんな研究チーム集めたんですかね。あれか、よくある年度内の予算消化でしょうか。
話を大事なほうに戻しますね。さっきから僕がさかんに「ノー・モア・レギンス！」を叫んでいるのは、何も博士の姪に限った話ではありません。いまや恐ろしいことに、若い女性のレギンス着用率はおよそ春30％、夏50％、秋80％、冬90％となっているんです。股引という呼称に戻したい僕の気持ちも頷いてもらえることでしょう。春が低いのはおそらく何かに張り切るからだと言われますが、そんなことよりも夏が終わればさらにレギンス着用率が上昇することが問題なのです！！
そこで、天才博士のもとにいる超天才助手である僕がレギンス普及率を下げる兵器を開発していることは、ここだけの秘密です。博士にも内緒にしていることなのです。
いいか、名犬マヤ。お前にこの錠剤を飲ませよう。さあ、飲め。こら噛むなっ！ 頼む、おとなしく飲んでくれ。ハムの香りがするだろう？ よーし、よーし。
おかあさんに簡単に説明しておきますね。実は、博士はいま国家的機密プロジェクトから特命を受けて、とんでもない最終兵器の開発を行っています。それは、うまみ成分ならぬ、うらみ成分を粉末として抽出することに世界で初めて成功したのです！ これはすごい世紀の発明です。例えば、米国大統領をうらんでいる軍事リーダーの体からうらみ成分を抽出し、米兵の食事に混入させて飲ませれば、たちまち恐るべき反逆軍を生み出すことができるます。と、博士が言っていました。僕はそんなこと微塵も考えてません。あとは、大阪人の東京うらみ成分を……いや、それはうらみじゃなくて嫉妬でしたか。誤解してすいません大阪人の方々。
ともかく、これだけの発明がまだ全世界で注目されるに至っていないのは、アナログ放送終了に対するデモ騒動や、地球滅亡説の検証番組の急増だけでなく、相撲賭博をやっていたプロ野球選手たちの摘発や、日本のサッカー代表監督がまだ決まっていないことなど、いろいろ世間をにぎわす話題が多かったせいであり、また、僕が博士に頼まれて研究論文を送った先が『あまから手帖』編集部だったせいもあるかもしれません。まあ、それはそれとして。
名犬マヤ。お前の任務は重要だ。僕の体からにじみ出たレギンスに対するうらみ成分が体内に回れば、もうすぐお前は居ても立ってもいられなくなる。まずは手はじめに片っぱしからレギンスを履いた若い女性に襲いかかってこい。おばさんはいい。若い女性限定だ。期待してください、おかあさん。これがうまくいけば、この錠剤をもっと量産し、芦屋に戸建てを買う資金を得るために、全国に五万といるアンチレギンス派の連中にヤフオクで売りまくる計画なのです！
そう、合言葉はひとつ！
ノー・モア・レギンス！
ノー・モア・レギンス！
おや、マヤがついにアンダードッグ（ここでは下着の猟犬の意）として覚醒しはじめたぞ。どうやら薬が順調に効いてきたようだ。そのとき、ガチャリと音がしてドアが開いた。姪のランが手にバニラソフトクリームを持って戻ってきた。自分のだけだ。なめやがって。行け！ マヤ！ お前が美女の臀部に巣食う漆黒の悪魔を追い払うのだ！
ん？ ――何だ、どうしたマヤ。どうしてこっちを向く。どうしてこっちに歯を向ける。しまった！ もしかして僕のポケットに女性更衣室から実験用に拝借した黒い股引が……違うっ、これは博士の命令でっ！ マヤアアアアアッ！
2012年の12月20日、マヤ暦ではひとつの区切りを迎える。これから、2012年最後の一ヶ月になろうとしている。Xデーが刻々と迫る混沌とした社会情勢のなか、すでにNASAが国内大手メーカー数社と共同開発した、太陽フレアを大幅にカットする特殊レギンスの普及率は、先進国や新興国で90％を上回ろうとしていた。特に中国の需要数がすさまじく、さすがに宇宙開発で遅れを取っていたため模造に苦戦し、米国の独占市場となっていた。
そして、一説には『エリア51』と称される地区で特注品の八本足用のレギンスも生産されていると言うが、真偽は定かでない。
（おわり）
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