むか~しむかしあるところに、それはそれは心のやさしい、おじいさんとおばあさんがすんでいました。 子供のいなかった二人は、シロと名付けた真っ白い犬を、たいそう可愛がっていました。 ある日、畑でシロの鳴き声がします。 おじいさんが行ってみると、シロが「ここ掘れワンワン」と鳴いていました。 声帯の構造上、犬が「ここ掘れワンワン」と聞こえるように鳴ける筈がありません。間違いなく、おじいさんの思い込みです。 ですが、愛は盲目です。おじいさんは、思い込みの通りにそこを掘ってみました。 するとどうでしょう。大判小判どころか、その場所から夏王朝やヒッタイト文明の宝物がざくざくと出土して来たのです。 おじいさんとおばあさんは大喜びです。いきなり大金持ちになってしまいました。 出土したものは届け出ないといけません。国宝指定になるので、ネコババは重罪です。ですがそんな法的な措置さえ、おじいさんとおばあさんは知るよしもありません。いいんです、むかしばなしはやったもん勝ちです。 そんなラッキーな話を、隣に住むいじわるじいさんが聞きつけました。 いじわるじいさんは、『いじわるじいさん』というフルネームです。だからいじわるじいさんのお父さんは、『いじわるじいさんパパ』という名前なのです。とはいえ、このお話の筋書きには全く関係ありません。 いじわるじいさんは嫌がるシロを無理矢理、自分の畑に連れて来ました。 なにせ無理矢理なものですから、ふだん元気なシロもテンション急降下です。 かったるいので、妙な匂いがした場所でうずくまってしまいました。 そこにお宝があると思い込んだいじわるじいさんは、一生懸命掘って行きました。 土の中で鍬の先に何かが当たりました。 なんと、喜んだいじわるじいさんが掘った土の中から、すでに白骨化した腐乱死体が出て来ました。 それは何年か前に、いじわるじいさんがぶっ殺して埋めたいじわるばあさんです。 とうぜん死亡届も出していないので、いじわるじいさんのもとには、今でもいじわるばあさん名義の年金が入って来ています。 悲鳴を上げたいじわるじいさんは、シロを鍬でたたき殺してしまいました。 いじわるじいさんもいじわるじいさんで、いじわるばあさんの死体を埋めた場所を、すっかり忘れてしまっていたのもこまったものです。 おじいさんとおばあさんはたいそう悲しみました。 シロの墓を作り、その側に木の苗を植えました。 するとどうでしょう。その木の苗はすくすくと、まるでコマ送りのように育って、あっという間に立派な大木に成長しました。 傘を持って空を飛ぶ特技を持った、あの毛むくじゃらの妖怪がいた訳ではありません。 ある夜、おじいさんの枕元にシロが現れ、「大木で臼を作ってねっ♪」というメッセージを残していきました。 おじいさんとおばあさんはシロの予言どおりに、大木を切って臼を作り、シロにお供えをしようと餅をつきはじめました。 古来より夫婦ゲンカと夏餅は犬も食わないといいますが、ここでは目をつぶりましょう。 おもちをつきましょう。ぺったんぺったん。 するとどうでしょう。二人がつくお餅が金色に輝いたと思うと、お餅の中から金・銀・パールやダイヤモンドが現れて来ました。 これは新手の錬金術か、科学的な元素変換によるものでしょうか。いえその臼自体に、空中元素固定装置が内蔵されていたのかも知れません。パンサークローに知られたら、確実に狙われます。 おじいさんとおばあさんは大喜びです。さらに大金持ちになって地主さまの土地を丸ごと買い取ってしまい、ゴルフ場用地に売却してボロもうけです。 そんな桁違いなラッキーな話を、隣に住むいじわるじいさんが聞きつけました。 おじいさんとおばあさんから無理矢理臼を借りてくると、お餅をつき始めます。 おもちをつきましょう。ぺったんぺったん。 するとどうでしょう。お餅が紅く変色しはじめました。「紅白餅とは縁起がいい」などと勝手な思い込みをしたいじわるじいさんは、さらにお餅をついていきます。 赤い餅はさらにどす黒く変色していきます。 いじわるじいさんが、これは食紅などの色でなく血の色だと気付いた時、お餅のなかからにゅっと骨張った手が現れました。 その手が臼のへりをつかむと、ゆっくりとからだを起こして来ます。 白髪頭は半分欠けていて脳みそが見え、その顔の片方の眼窩から眼球がどろっと落ちてぶら下がっています。片手は肘から腐り落ちて、そこにウジがたかっていました。 それは畑に埋めて肥やしになったはずの、いじわるばあさんです。 臼の中から上半身を持ち上げたいじわるばあさんは、「じいさぁん、会いたかったよぉ… あたしのへそくり、かぁえせぇ~」とか言いながら、いじわるじいさんに迫って来ました。 悲鳴を上げたいじわるじいさんは、半狂乱になりながら手にした斧で臼をたたきこわし、かまどで燃やしてしまいました。 おじいさんとおばあさんはたいそう悲しみました。 せめてシロの形見にと、臼を燃やした灰を持ち帰りました。 その夜おじいさんとおばあさんは、シロの思い出話に浸っていました。 するとどこからか吹いて来た風が、臼の灰を飛ばしておじいさんのお茶に入ってしまいました。 おじいさんは「これもシロがわしといっしょにいたがっているのだな」と勝手な解釈をして、そのお茶を飲みました。 するとどうでしょう。突然、おじいさんに青春が戻ったではありませんか。 そう、おじいさんの枯れ木に華が咲いたのです。 「ばあさん、今晩ひさしぶりにどうだい?」 「あれま。やだよおじいさんったら」 おじいさんとおばあさんはラブラブです。イエス・ノー枕はもちろん、YESです! 臼を燃やした灰には、偶然にもバイアグラと同等の成分が入っていたのでしょうか。 それから絶倫パワーを得たおじさんは、おばあさんだけに飽きたらず千人斬りに乗り出しました。 いくら心やさしいおじいさんとはいえ、これはこれで社会の迷惑です。 そんなうわさを聞きつけたいじわるじいさんは、かまどに残った灰を口いっぱいに含んで飲み込み、急激な心臓への負担と、喉に詰まった灰による窒息でぽっくり逝ってしまいましたとさ。 めでたしめでたし。
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