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[58] レアクリース物語 第2節「鉄の腕」 第2章
健良 - 2004年11月13日 (土) 14時12分

 

 三人はサリアノースに着くといつもどうり宿を取り、雇い主である治安維持部に出頭した。一般に、街守衛本部と呼ばれる機関である。そこの責任者は、ジルニス・ファレオ・エルドナド男爵という人物だった。

 「で、君が四週間も仕事をほったらかして連れてきた助け人は、いったいどこにいるのかね、ゲイリー」

 「俺の留守中は、部下がちゃんと仕事をしていたはずですがね。助け人なら、彼ですよ。彼は、メリアセリアスのアルファルファです」

 「エルフ。メリアセリアスだって。いったい、なんで」

 「なんでって、そりゃ、アルが凄腕だからですよ。あなたが自分の身で試してみますか、エルドナド男爵」

 エルドナドは鼻を鳴らした。

 「まあ、いいさ。エルフだろうが、ドワーフだろうが。とにかく頑張りたまえよ。それから、言っておくが……」

 「追加料金は払えないってんでしょ。解かってますよ。アルには俺達の分から都合しますからね」

 

 ゲイリーはエルドナド男爵と打ち合わせがあるとかで、アルファルファとダイアナを先に帰した。アルファルファが街を見て回りたいと言うと、ダイアナは黙ってついてきた。

 彼女はアルファルファと二人でいるときは終始無言だった。アルファルファの方から話しかければ返事くらいはするのだが、決して彼女からは話しかけてこない。どうも、自分を避けているようだ。

 アルファルファにはその訳が解からず、なんとかして彼女と打ち解けようとしたのだが、今のところ無駄な努力に終わっていた。

 サリアノースの街並みは、他の都市に比べるとずいぶん秩序だった造りをしていた。それがアルファルファには息苦しく感じられた。ここ一箇月の生活で、自分にはしっかり、ならず者の性質が身についたのだろうか。

 いや、そうではない。このどこまでも人工的な光景は、エルフの感性とはあいいれぬものなのだ。そう、アルファルファは考え直した。

 突然、アルファルファの耳に、一般生活から発生する雑音とはまったく異質なものが飛び込んでくる。女性の悲鳴。それに続く男達の粗野な笑い声。

 「今のはなんだろう、ダイアナ。君には……」

 今度はもっとはっきり聞こえた。空耳などではない。ダイアナにも聞こえたのだろう、彼女は悲鳴の聞こえた方、つまり裏通りに向かって駆けだしていた。

 アルファルファもすぐに続いたが、ダイアナの脚は恐ろしく速かった。アルファルファも脚には自信があったが、彼女にはまったく歯が立たない。どんどん引き放されていく。

 裏通りは表の通りよりも道幅が狭く、曲がり角が多くあった。特にこの辺りは倉庫として使われている建物が多く、人がまったくいない。あの声の主を除いては。

 ダイアナは前方の曲がり角を曲がった。アルファルファには声だけが聞こえてくる。

 「その娘から手をお離し、この下司ども」

 男達の忍び笑い。

 「おやおや、獲物が一匹増えたようだぜ」

 なにか殴り付けたような湿った音。男の悲鳴がそれに続く。

 「このあま。かまわねえ、ぶっ殺しちまおうぜ」

 剣を抜く音。その時、アルファルファは曲がり角を過ぎて現場を目にする。そこは行き止まりだった。

 壁によりかかって、泣きじゃくっている女性。彼女の服は所々裂け、白い肌が露出していた。その右側に二人、左側にひとり、身なりの良くない男達が立っており、それぞれが剣を手に持ち、ダイアナを睨みつけていた。

 ダイアナは右側の二人に向かって素早く間をつめ、手にした細身の剣を突き出していった。彼女の腕はゲイリーの指摘したようにかなりのものだ。男二人を相手にしても、まだ余裕がありそうだ。

 左側の男がダイアナに一撃加えようと、背後から近づいた。剣が振り下ろされる瞬間、アルファルファはそれを自分の剣で逸らした。

 「ダイアナは忙しいようだから、君の相手は僕がしようか」

 「エルフか」

 男の顔に狼狽が浮かぶ。それを見て、アルファルファはにやりと笑う。

 「エルフが怖いのかい。安心するといい。魂までは取らないから。けれど、命はどうかな。まあそれも、君次第ってとこだね」

 男はアルファルファに襲いかかってきた。アルファルファはその攻撃を簡単に逸らす。男の剣術は素人に毛の生えた程度のものだった。反撃してくるものに襲いかかるのは、慣れていないのだろう。剣は弱いものを脅すためのもの。この男がそう考えているのは明らかだ。まあ、これもいい薬になるだろう。

 アルファルファは男の手に切り付けて、剣を落とさせる。男は悲鳴を上げながらも落とした剣に手を延ばすが、アルファルファは剣を蹴飛ばして遠くへやり、男の咽もとには自分の剣の切っ先を当てる。男の動きが止った。

 「さて、どうするか。右手に力を加えれば、それで終わりなんだが……」

 男は素早く立ち上がると、背中を見せて逃げ出した。アルファルファはその後を追わなかった。

 耳もと近くで風を切る音が聞こえ、なにか光るものが目の前に飛んでいった。それはまっすぐに逃げる男の背中へと飛び、突き刺さった。男は、ぎゃっ、という悲鳴を上げ、倒れたきり動かなくなった。背中に突き刺さっているのは短剣だ。

 アルファルファが振り返ると、ダイアナが立っている。その後ろには男の死体が二つ。ダイアナの瞳には激しい憎しみが宿っており、それは今、アルファルファに向けられていた。

 「なぜ、あの男を逃がそうとしたの。あなたにだって、とどめは刺せたはずだわ、エルフ」

 「僕は戦う意志のない者に切りつけたりしない。それは、僕の流儀じゃないからだよ、ダイアナ」

 ダイアナは哄笑しながらアルファルファの横を通り過ぎ、殺した男のそばにいく。その身体から短剣を引き抜くと、男の衣服で血を拭い、腰の鞘に戻した。ダイアナは振り向き、アルファルファを睨む。

 「ご立派ですこと。でもね、メリアセリアスのアルファルファ。私はこういう男達を生かしておけないの。これが私の流儀よ。良く覚えておくといいわ」

 ダイアナは壁に寄り掛かっている女性に目をやる。

 「気分が悪いわ。先に戻らせてもらいます」

 ダイアナは足早にその場を去っていった。アルファルファは黙って彼女を見送った後、もう一人の女性を思いだした。アルファルファは泣きじゃくっている女性に慰めの言葉を駆け、自分の外套で彼女の身体を覆ってやった。

 こういった出来事は、被害を受けた女性の心に大きな衝撃を与えるものだ。アルファルファは女性が落ち着くのを気長に待ち、彼女が筋道だった話しができるようになると、彼女の家の場所を尋ねて、そこまで送ってやった。彼女の両親からは感謝の言葉と、幾許かの謝礼をもらった。

 アルファルファはすぐに宿へ戻る気が起きず、しばらく街をぶらつくことにした。しかし、あのダイアナの、激しい感情の放出はいったいなんだったのだろう。ひょっとしたら、襲われている女性に自分の身を重ね見ていたのかもしれない。ダイアナの心にも大きな傷がある。そういうことだろうか。

 

 アルファルファが宿に戻ると、ダイアナはアルファルファ達の部屋で酒を飲んでいた。ゲイリーがまとめ買いしたものが、その部屋に置いてあったためだ。

 ゲイリーはまだ戻っていないようだ。ダイアナはひとりで酒を飲んでおり、アルファルファはその部屋に漂う暗い感じが気に入らなかった。

 アルファルファは彼女の慰めにならないかと、歌を歌い始めた。ジャンルは問わず、とにかく、明るいものを何曲も。

 しかし、ダイアナの口にする酒の量は増えていく一方だった。アルファルファは彼女の座っている卓に近づくと、注ぎかけている酒瓶の口をつまんで、それを止めた。

 「いったい、どういうつもり」

 「酒の飲み過ぎは、体に良くないよ」

 「あなたに、私のなにが解かるっていうのよ」

 アルファルファは突然の大声にたじろいだ。ダイアナは顔を上げ、アルファルファを睨みつけた。

 「あなたは、私を捨てた一番最初の男にそっくりだわ。背が高くて、金髪で、歌がうまくて、その上、ハンサムで」

 「ダイアナ。目を開いて僕をよく見てごらん。僕はそんなに、背が高くないはずさ。それに、君の昔の恋人は、緑の瞳じゃなかったはずだし、耳も尖ってないはずだよ。その人もエルフだったというなら、話しは別だけど」

 「しゃべりかたまで、あの男そっくりだわ。それに、口先だけの理想主義者」

 ダイアナは杯に残っていた酒を一気にあおった。

 「あなたの歌った愛なんて、みんな嘘っぱちよ。恋も、愛も、くだらない幻想だわ。男達が女に優しくするときはね、必ず後で代償を求めるのよ。それが何なのか、あなたにだって解かるはずだわ。女がそれを拒んだら、男はどうするのかしら。力づくで、女を辱めるんだわ」

 ダイアナは勢いよく椅子から立ち上がる。酔っているのか、少し足元がふらつくが、彼女は顎を少し上げ、挑むようにアルファルファを睨んだ。

 「あなたが私に構うのも、私の身体が目的なのかしら、異郷の人。だったら、私を抱けばいいわ。さあ、試してごらん。私にだって、女の機能ぐらいはたせるわよ」

 アルファルファはダイアナの肩をきつくつかんで、自分の近くに引き寄せる。彼女の目をのぞき込むと、そこには昼間に見せた憎しみも、先ほどまでの挑戦の光もなかった。あるのは、深い絶望。

 アルファルファは胸が痛くなった。彼女の茶色の前髪を優しくかき分けると、額に軽く接吻した。彼女を放し、一歩下がる。彼女の顔には戸惑いが浮かんでいた。

 「機能なんて言葉を使うもんじゃない、ダイアナ。悲しすぎるよ、そんなの。僕は君の身体が欲しい訳じゃない。君のことが心配なんだ。心に巣食う闇は、自分も知らないうちに、他の健康な部分をむしばんでいくものなんだ。僕にだって、経験がある」

 ダイアナはなにも言わない。ただ、音を立てずに泣いていた。

 「男と女は、恋人同士にしかなれないのかい、ダイアナ。友達同士にはなれないものなのかな」

 ダイアナは首を横に振った。その声は不思議と静かなものだった。

 「いいえ。なれると思うわ。あなたが今のように、紳士的な態度を取り続けているかぎりは」

 アルファルファは笑った。

 「それなら大丈夫さ。僕はとびきり、行儀のいいエルフなんだ」

 ダイアナも彼の言葉に微笑んだ。

 「男の格好をして男のように振る舞う女と、人間の社会に飛び出してきて人間のように生活するエルフ。どちらも少数派ね。少数派は少数派どうし、肩寄せ合ってと言うわけね。いいわ、アル。私達友達よ」

 「それじゃ、さっそく、友達としての忠告だ。君が歳を取って、笑顔の素敵なお婆さんになりたいと思うなら、暴飲、暴食、睡眠不足は避けたほうがいいとおもうな」

 ダイアナはこのおかしな忠告に笑い声を上げる。その瞳はまだ涙に濡れていたが。

 「いきなり、お婆さんはないでしょ、アル。せめて、お肌のためにとか、言い方があるでしょうに。でも、友達の忠告は聞くものよね」

 ダイアナは卓の上の酒瓶と杯をかたづけようとする。アルファルファはそれを止めた。

 「僕がやるからいいよ。もう遅いから、寝たほうがいい。明日からさっそく、エルドナド男爵に扱き使われるだろうから」

 ダイアナはアルファルファに礼をいい、就寝の挨拶をしてから部屋を出ていった。アルファルファは彼女の残した酒を杯に注ぎ、少しすする。あれで良かったのだろうか。彼女の心の傷が早く消えることを祈りつつ、アルファルファは杯をあけた。

 

 翌日、アルファルファが朝食を取るために食堂におりていくと、ダイアナはすでに食事を始めていた。彼女は彼の顔を見ると、おはよう、と言った。アルファルファもそれに答え、カウンターに行って自分の朝食を取ってくると、彼女の向かい側に座った。

 「ゲイリーはどうしたの」

 「まだ寝てるよ。明け方近くに、ぐてんぐてんになって帰ってきたんだ。こっちは叩き起こされて、水を運んだり、戻した物を始末したり……、失礼、食事中だったね」

 ダイアナはそれを笑って許した。それから二人は一緒に食事を取りながら、あたり触りのない世間話しをする。二人が食事を終えるころ、ゲイリーが元気な様子でおりてくる。やっぱり、規格外なんだ。アルファルファは小声でつぶやいた。

 「ふうん。昨日までと、ずいぶんようすが違うな。とうとうやったのか、アル。俺も、気を利かせたかいがあったってもんだ」

 「なんのことだい、ゲイリー」

 「隠すなよ、アル。で、ダイアナはどんなだった」

 ゲイリーはアルファルファの横に腰をかけながら、アルファルファの脇腹を肘で小突く。

 「ゲイリー。君は、勘違いしているよ。確かに、今まで僕らには、行き違いがあったのは確かだけど」

 アルファルファはダイアナの顔を見た。彼女の表情に変化はない。

 「ふむふむ。種族間のギャップだな。それで、どんなふうにそれを解消したんだ。今後の参考のためだ、教えろよ」

 ゲイリーはそう言いながら、手で、ちょっと表現できないような動きをする。

 「ゲイリー、君の頭のなかには、それしかないのかい」

 「当たり前だろ。男の存在意義が、他のどこにあるって言うんだ」

 アルファルファは頭を抱えた。耳に女性の笑い声が飛び込んでくる。アルファルファは顔を上げた。ダイアナが笑っている。これにはゲイリーも驚いている。

 「さあさあ、ゲイリー。馬鹿な話しはそこまでにして、食事を済せなさい。今日から仕事に戻らなくては。私が取ってきてあげるわ」

 そう言ってダイアナは席を立ち、ゲイリーの朝食を取りに行った。

 これはいい傾向だ。アルファルファはそう思った。ここへ来る途中、ゲイリーがこういう話しを始めると、彼女はいつも嫌な顔をしていたものだ。彼女は今朝、それを笑い飛ばしてしまった。

 彼女の心の傷は癒えかけている。アルファルファはそう確信した。いずれ、彼女にも心から愛することのできる男性が現われるだろう。それまで、自分が彼女の心の支えになれれば。アルファルファは、そんなふうに思っていた。

 

 建物の間から見上げる空は今日も灰色だった。もう、いつ白い物が落ちてきてもおかしくない。大通りには、白い息を吐きながら車を引く馬が行き交っていた。

 アルファルファは外套を引き寄せ、忍び込んでくる寒さをなんとか締め出そうとした。ここでもまた、盗人に対する巡回か。森の中の方がましだな。吹き付ける風が木々で遮られる分だけ、寒さをしのぎやすい。

 「僕は、寒いのが苦手なんだ」

 「なに言ってるんだ。こんなの寒いうちに入らないぜ。している小便がその場で凍って、最後にぶら下がって離れなくなる。そうなってはじめて、寒いって言うのさ」

 「げっ、ゲイリー。もうちょっと、品のある表現はないのかい」

 ゲイリーは鼻で笑い飛ばす。

 「気取ってみたってしょうがないさ。だいいち、お前さんはそう言うのが嫌いなんじゃなかったか」

 「僕の嫌なのは、ただ身分の差だけで、相手にへつらったり、尊大に構えたりすることだよ。それは、相手を不快にさせる話し方をするのとは違うさ」

 「でも、俺の話を聞いて、不快だっていったのは、お前さんが初めてだぜ」

 アルファルファはゲイリーの周りにいつもいる連中を思いだした。確かに、彼らはゲイリーと同じような話し方をする。互いに不快に思わないのも当然だ。それに、ゲイリーは依頼人相手の時は極く普通に話すのだから。

 「わ、解かった、ゲイリー。僕が、君に合わせるようにしよう」

 ゲイリーは勢いよくアルファルファの背中を叩く。

 「そうだぜ、アル。どうせなら、本当の男にならなくちゃな。おい、見てみろ。あの女の見事な尻。ありゃ、本物だぜ。詰め物したり、引き絞ったりしてない。なあ、どう思う、アルよ」

 振り向いたゲイリーの顔は心底嬉しそうだった。アルファルファは早くも、先ほどの言葉を後悔し始める。

 前方から男がひとり、息を切らせながら走って来た。アルファルファには、その顔に見覚えがあった。ゲイリーの部下のひとりだ。今も、ゲイリーのもとには十人程の部下がいた。彼は三つに分けた組をつくり、地域毎に配置をして、街の巡回に当たらせていた。

 「大変ですよ、ゲイリー隊長」

 「俺を隊長と呼ぶんじゃない。いったい、どうしたんだ」

 男は立ち止ると、息を整えてからしゃべりはじめた。

 「三ブロック先の宝石商の屋敷がやられました。奴らです」

 それを聞くと、ゲイリーとアルファルファは走り始めた。伝えに来た男も少し遅れてついてきた。街守衛が出入りしている建物がる。あそこが被害にあったのだろうか。

 ゲイリーとアルファルファは建物の中に駆け込んだ。入り口に死体がおかれている。部屋の奥にも三体ほど。そのほとんどが鈍器のようなもので頭をぐちゃぐちゃにされていた。床一面に血が飛び散っている。

 あたりには、鼻の奥をくすぐるような臭いが漂い、集まったもの達の驚きと怒りがその場を支配していた。

 「また、同じ手口か。夜中のうちに、全部、かたづけたんだろうな。悲鳴やら、争う音やら、聞いたものはいたか」

 ゲイリーの質問に街守衛のひとりが答える。

 「それも例のごとくですよ。目撃者、その他、一切いません」

 ゲイリーはとくに大きな死体の一つに近づくと、屈みこんで調べた。

 「こいつは、この家の者か」

 「違いますよ。この男は、用心棒として雇われていたようです」

 ゲイリーはその男の首の周りを触って、なにかつぶやいていた。この男には、頭部に打僕傷がなかった。ただ、首の骨が折れているようで、頭がおかしな角度でぶら下がっていた。

 「ゲイリー、その男がどうかしたのか」

 「アルよ、これ、何に見える」

 そう言ってゲイリーは死体の首のあたりを指差した。

 「指の跡じゃないかな。この男は絞殺されたんだ。でも、右に四本、左に一本っていうのは……」

 「右手一本で締め殺された。締めるだけじゃ、首の骨は折れんぜ。片手で吊り上げたのかもな」

 「この大男をかい。まさか。<鉄の腕>にはトロールでもいるのか」

 「俺にだって、わからんよ、アル。トロールがいるんだったら、もっと目だってもいいはずだ。なのに、こっちにはろくに姿も見せない」

 ゲイリーは死体から離れると、部屋の中を見て回る。部屋の中には物色された跡がはっきりと残り、床には壊れた家具の残骸や破れた衣服の切れ端が散乱していた。アルファルファは、街守衛の一人に被害の内容を尋ねた。

 「殺されたのは五人ですね。二階でも一つ、死体が見つかりましたよ。それから、金庫が破壊されてます。中には、宝石や金貨、銀貸が保管されていたんだと思われますが、正確なところは解かりません。この家にいた女性は、みんな連れていかれたようです。いつものことですが」

 「がっついてるぜ、奴ら」

 報告を聞いていたゲイリーがそう言った。

 「人のこと言えないと思うよ、ゲイリー。君ときたら、誰彼となく色目を使うんだから」

 「俺は、力づくってのが気にいらねえんだ。こういうことはな、互いに同意していて、初めて楽しめるんだぜ、アル」

 「君がそう考えてるんだと知って安心したよ」

 ゲイリーはこの皮肉に対していろいろ文句を言ったが、アルファルファは聞いてさえいなかった。ちょうど、部屋に入って来た男に気を取られていたのだ。

 男は赤い長衣を着ていた。部屋を見回し、アルファルファに目を留めると、目礼した。アルファルファはその男に近づいた。

 「失礼ですが。あなたとは、どこかでお会いしたことがありましたか。僕には、憶えがないのですが。僕のことをご存じなんですか」

 赤い長衣の男は微笑んで答えた。

 「“赤”の魔術師で、あなたのことを知らない者はいないと思いますよ、メリアセリアスのアルファルファ。あなたのしたことは、ちょっとした伝説ですよ。少なくとも、アリアトリムではね」

 フサ−メリアセリアス戦争の本当の原因について知るものは、ほんの僅かしかいない。表向きはフサ側の侵略行為とされていた。

 援軍をだすことに決めていた都市も、アリアトリムの大導師がドリアンの企みを通達した後は事実を隠匿することに躍起になっていた。自分達がダ=ライの復活に手を貸そうとしていたと知れ渡れば、今後の政治交渉に支障をきたすと考えたのだろう。

 「申し遅れました。私は、アーネスト・エーベロール・ハンブリー。これが示す通り、“赤”の魔術師です」

 そう言いながら、アーネストは長衣の端をつまんでみせた。

 「アリアトリム。今度は何事です」

 「あなたの報告を受けてから、私達は追跡し続けていたのですが、どうも、サリアノースにようがあるらしくて」

 「なんのことです」

 「ダーク・エルフですよ。あなたを狙撃した。ソルカム・ダカ・イーグラ」

 アルファルファの脳裏にあの男の顔が蘇った。肩に掛かる銀髪、冷酷な心とすさまじい狂気をうつす琥珀色の目。そして、邪悪なものに魂を売った証である赤みのささない灰色の肌。

 どれもこれも、アルファルファにとっては悪夢に等しかった。何にもまして、あの男は“ダ=ライの右目”を持っているのだ。

 「あのダーク・エルフが、<鉄の腕>に関係があると」

 「そこまでは解かりません。ただ、奴がこの街によったのは確かなんです。そのままじゃ目立つから、擬態を使ったようですが」

 「擬態ですって」

 「ええ、擬態です。魔法の一種ですよ。簡単に言えば、変装です。もっと効果的ですがね」

 アルファルファはダラスがエルフに化けたことがあるのを思いだした。あれは、確かに見事なものだ。ちょっとやそっとでは見分けがつくまい。戦時中のメリアセリアスの陣へ、かなりの警戒の中をかいくぐって、ダラスはいとも簡単に忍び込んできた。

 「あいつは、魔法を使えるのか。確か、腰に剣を吊っていたような気がするが。間違いない。あいつは、戦士だったはずだ」

 「二つの能力を持てないということは、ないんですよ。魔法の修業はつらいものでしてね、それに没頭すると、他のことに手が付かなくなるんです。でもまれに、剣術にも手を出してみようかという、奇特なものも現われますね。たいていは、どっちつかずに終わるんですが」

 「その両方を極めたものが、今まで何人いるんだろう」

 「さあ、解かりませんね。私の知る限り、そんな人間はいませんね。まあ、人間に限りませんが。ソルカムも、両方をそこそこ齧ったという程度でしょう。今までのところ、彼が達人級の技を見せたと言う報告は入っていませんから」

 アーネストはそう言って笑った。

 「私はここに、手掛かりがないかと思ってきたんですが。魔法の行なわれた形跡はありませんね」

 アーネストは部屋を見回し、少し歩き回って、死体の傷を調べたりした。

 「不審なところは見つかりません。取り越苦労でしたか」

 「なにか手伝えることがあれば」

 「あなたにも、仕事があるでしょう。ダーク・エルフのことは、私達に任せておいてください、アルファルファ」

 アルファルファはうなずいた。すべては、アリアトリムの手に委ねられたのだ。自分が口だしすべきではない。いまさらしゃしゃり出ていっても、彼らの捜査を混乱させるだけだ。

 「解かりました。幸運を祈ってますよ、アーネスト」

 「こちらも。メリアセリアスのアルファルファ」

 アーネストはアルファルファと握手をかわすと、館を出ていった。

 「ダラスの元同僚か。ダーク・エルフだって。これに何か関係があるのか」

 ゲイリーはまだ玄関の方を見つめていた。

 「彼の見解では、ソルカムは無関係だそうだけど。でも、タイミングがよすぎる気もするね」

 アルファルファはそうつぶやいた。

 「まあ、ダーク・エルフも、観光旅行ぐらいするんだろ。クルディストリドに比べれば、サリアノースもまだ暖かいほうさ」

 ゲイリーはそう言って、アルファルファの懸念を笑い飛ばした。



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